オフパコのジョー(Joker)・・・序
2021年7月17日
作・行入竜二
イントロダクション
1981年。
ゴッサムシティ。
ピエロは道化師ではない。
ピエロは愚か者役である。
道化はクラウンの仕事。
ピエロはただただ愚鈍に。
怒ることもなく、
口答えすることもなく、
面白おかしく動き、
ただ笑っている。
ピエロの姿をしたジョーカーは踊る。
ジョーカーは雨の中で踊る。
ゴッサムシティの汚れきった空気を濡らし落ちる雨の中を踊る。
白く塗った顔。
切れ長の目に筋の通った鼻梁。
口には大きく口紅で笑い顔を書いて、薄ら笑みで踊る。
ジョーカーは微笑んでいるのか、笑っているのか自分でもわからない。
汚れきった雨粒がピエロの化粧を施したジョーカーの顔を撃つ。
雨で剥がれ垂れる白粉。
大きな笑い顔を模した口紅が雨と混じる。
赤い口からは口紅が血が滴るように垂れ落ちる。
夕闇迫る雨の街角に、ジョーカーの笑い声が吠えるように聞こえきた…そして時は過ぎた。
序
ああん
うん、うん
あっ!
おっぱい吸ってぇ
まだ若い女の甘えた声が聞こえる。
ベチャベチャグチャグチャと湿った卑猥な音がする。
やがて男は排出欲が過ぎ去るとあっさりと女から離れ、ドアを開け出て行った。
物心ついた頃からアーサー・フレックはそんな環境で育ってきた。
母、ペニーが何をしているのかも長じるにつれてわかるようになった。
母に殴られることもあった。
それも一度や二度ではなく日常的に暴力が与えられた。
殴られても微笑むことを止めなかったアーサー。
それがさらに母の暴力を呼んだこともあった。
体中をペニーに鞭打たれ血を流して転がるアーサーを見て、ペニーはより泣き叫びながらこんどは背中や腕の爛れたアーサーを息が止まるほどにきつく抱きしめるのだった。
食事もろくに与えられずに、やせ細って育ったアーサー。
アーサーは美しい母が大好きだった。
この世に母ひとりいれば良いとさえ思った。
母が僕を打つのは僕が良くない子供だからなんだ。
母に嫌われないようにいつも母を見て微笑んでいた。
時々母は妄想を言う。
あんたはトーマス・ウェインとの子供よ。
ペニーが家政婦としてウェイン家に働きに行ったのは確からしい。
あのトーマス・ウェンは母と間違いがあったのかもしれないと、アーサーはなんとなく思っていた。
そんな間違いがあっても不思議ではないほどに、母は本当にきれいだった。
ペニー・フレックは精神病院に入れられていたこともあったらしい。
妄想障害があってウェイン家に迷惑をかけ事件を起こしたらしい。
そんな母はトランキライザーが手放せない。
ペニーはやがてアーサーに暴力を加えなくなってきた。
暴力を加えるほどの体力が既になくなっていた。
訪れる男もほとんどいなくなった。
体力的にも痩せてベッドで横になっていることが多かった。
アーサーが作る食事もペニーは三分の一ほど食べるのがせいぜいだった。
アーサー・フレック
空が白み始めた頃アーサーはコンビニの夜勤パートを終えて帰宅する。
既に初老を迎えたアーサー。
まともな職にも付けず、パートや臨時雇の雑用ばかりでこの世の片隅で生きてきたアーサー。
ただ笑顔が良いからとコンビニの夜勤アルバイトに採用された。
アーサーにとっても深夜のコンビニは好都合だった。
客は多くないのでのんびりSNSもできる。
たまに暴力的な客やグループが来るけど、アーサーがニコニコして対応すると大抵は引き下がって帰って行く。
なんて薄気味悪い野郎だ。
角材で殴られ、頭から血を流してまでニコニコしているアーサー。
少し不気味な異常者と思われているかもしれない。
アーサーにとって人がアーサーのことをどう思おうが何も感じないし、気にすることも気に病むこともない。
傷つけられて怪我をしても痛いのは一時だ。
時間が経てば傷は癒える。
痩身なひょろっとしたアーサーの肉体は、いたる所傷だらけだった。
風呂に入る時にそんな古傷が染みることがあるが、それも母ペニーとの思い出だ。
母こそがぼくが愛する唯一の存在。
母が亡くなった時に、母を捨てたウェイン家の門扉を揺さぶって泣き叫んだことがあった。
ウェイン~と叫んだ!
それでも、誰も現れなかった。
いや、執事らしき老人がこちらをちらっと見て、そのまま見ぬふりをして通り過ぎ去った。
大きな屋敷だった。
灰色の雲はたちまち空いっぱいに広がるとやがて大きな雨粒を落としだした。
雨の中、肩を落としたまだ幼い少年のアーサーを見かけたのはそれが最後だった。
それからアーサーがどんな風に育ってきたのか、誰も知らない。
多分アーサーの頭の中にも記憶としての記録はないのかもしれない。
仕事を終えての明け方にアーサーが帰る場所は、奇しくも母ペニーと暮らしたアパート*1だった。
おかえりアーサー。
今日の仕事はどうだったい。
いつもと同じさ、何もありゃしないよ。
そうか、それは良かったな。
アパートの管理人はアーサーの顔も見ないでそう言った。
アーサーはそんな管理人の顔をちらりと一瞥した。
あの頃からすると随分と年をとったな。
管理人を見てアーサーはそう思った。
それもそのはずアーサーとて初老と言われる年代に入っている。
だけど、おれが昔、ここにペニーと住んでいたんなんて覚えてもないんだろうなあ。
アーサーは愛おしい母の面影を辿って、母と一緒に生活したアパートに住むことにした。それは何より家賃が安かったこともあるが、大好きな母との思い出の場所でもあるからだ。
風呂上がり、バスタブをまとったまま眠りにつくアーサー。
アーサーの夢の世界の懊悩は深い。
多くの女との性行為も母ペニーとの性行為と比べようもなかった。
アーサーにとっては老いた母との経験が始めてだった。
母ペニーが意味もなく求めた男が、まさか息子とは分かっていなかったようだ。
美しかった母の顔は歯も何本も抜け落ちて頬はこけ、体は痩せて皮膚がたるみジワとなっていたが、アーサーにとっては母は女神であった。そんな母に訪れる男は一人もいなくなったが、アーサーにとっては光り輝くかのように美しく感じられた。
ある時アーサーはペニーのもとに通って来ていた一人の男に出会った。
出会ったというよりその男を見かけただけだった。
アーサーはその男の後をつけた。
とある薄汚いアパートの一室に男が入っていった。
アパートのドアの前に立つアーサー。
そっとドアを開けて部屋に入り込むアーサー。
両手に持った柔らかなスチールワイヤーロープをピンと張ると、その男の後ろから頭にかけ首元で後ろから締め上げた。
男は激しく動くが、痩身でも筋肉質なアーサーは、その動きをすべて封じる。
やがて男は弛緩した後に、ずんと重くなってアーサーのワイヤーロープにぶら下がる。と同時にアンモニアの匂いが立ち込めた。
ワイヤーロープで首を絞められた男が、命と引換えに失禁したのだった。
母の腹にど汚い精液を出した男どもには、死の小便で贖罪をさせてやる。
何度か手にかけた男どもは首吊りにすることで、腐れ性器を膨らませてから小便を漏らすと知ってから、アーサーは母への愛としてワイヤーロープを使うようになった。
こんな日は無性に女を抱きたくなる。
アーサーはSNSで女を求める。
大抵の女は誰かとやりたがっている。
ただそのやりたがることで腐れ縁を持ちたくないから、手短なところの男とは関係を持たない。
割り切って性行為のできる一夜限りの男を求めている。
それにはSNSが一番だと誰もが知っている。
SNSで会って、実際に性行為をすることはオフパコ。
オンはネットでオフはネットをしていないこと。
パコはパコパコと性行為で腰を動かすこと。
オフとパコをあわせてオフパコ。
アーサーはSNSでオフパコのジョーと名乗っている。
最初からオフパコと名乗ることで女の好奇心を煽る。
あからさまにオフパコと名乗ることでオフパコを軽く扱える。
オフパコのジョーなんて、どうせ名前だけよねなんて思われ、会ってくれる女も多い。
アーサーはCBDはVBN*2などを吸う。
吐き出す煙草の香り。
この煙草の香りもオフパコに向いている。
女がその気になりやすい。
周辺のモーテルの所在は頭に入っている。
軽く一杯やってからモーテルに連れ込む。
アーサーは女を抱いてもイッたことはない。
ペニーとだけ至福のときを味わった。
そんな至福な時を求めるがアーサーは勃起しても射精できない。
勃起したままのの攻めに女は喘ぎよだれを垂らす。
中には肛門に入れてくれという女もいる。
しゃぶり回す女もいる
仰向けに寝てベッドからから頭を下げ、そのまま喉の奥まで入れろという女もいる。
尻の穴にも入れた。
膣の中にアーサーの一物を入れ、さらに尻の穴の中に指を入れて自分のペニスに大腸の皮一枚で触れる。
自分のペニスの愛おしさで大腸を破って自分自身に直に触りたくなる。
女は狂ったように喘ぎ喜ぶ。
女が喜ぶのがアーサーは好きだった。
オフパコのジョーと呼ばれて女を喜ばせていた。
女を喜ばせることだけが目的だ。
女を喜ばせることで生きている実感を得る。
そして何時しかペニーの中に出したように射精してみたい。
それがアーサーの夢だった。
そんなアーサーだったが、ある時女の首を絞めてから得られた快感で射精した。
気がついたときに女は白目を剥いていた。
女を残し、モーテルからそっと逃げた。
毎回ではないが、そんなことがこれまでに2-3回あった。
女の首を絞めたあと、モーテルの窓から汚染物質の流れるゴッサムシティの川に飛び込んで、逃げたこともあった…
序・終わり
※行入竜二はペンネームです。